「今」に被さる過去の幻影

私たちは、日常の出来事の中で、過去に嫌な思いをした体験に近い状況を経験すると、「似ている」というだけでまるで今体験している出来事も過去の体験と「同じに違いない」と無意識にも思い込んでしまいます。このことを頭では理解できても、いざ自分がその状況になった時、その反応パターンに抗うのは非常に難しいでしょう。

過去の体験に「似ている」その出来事によって、その人の中には過去の体験で味わった「嫌な感情」が浮上しています。それはとても生々しく今現在の体験の上に覆いかぶさり、過去とは違うはずの体験を、過去の嫌だった体験と同じものだと認識させてしまうのです。

こうした微妙なレベルで起こる認識のすり替えに、私たちはほどんと気づくことがありません。気づかないままに、私たちは、過去と現在を行ったり来たりしながら、歪んだ現実を生きているわけです。

たとえば、現実に対して絶望的な気持ちになったり、怒りや悲しみを覚えたとして、その瞬間、あなたはどの世界を生きているのでしょうか?今この瞬間を生きていると言い切れるでしょうか?過去に体験した辛い出来事の場面にいるのではないでしょうか?

あなたが現在ではなく過去に居るとき、頭の中には「あの時もそうだった。あの時もあなたは私をこうやって裏切り、そしてまた今度も同じことをしているのね!」などと、瞬間的に様々なストーリーが駆け巡っています。

すごい勢いで駆け巡るそのストーリーを止めるのは、なかなかに大変な作業でしょう。いくらその心のザワザワを伴うストーリーを真実ではないと理屈で説明したとしても、現実に湧き上がる不快な感覚は、そんな説明など、いともたやすく吹き飛ばしてしまいます。意思の力でこれを止めるのは、ほぼ不可能なことなのです

ワークにおいては、このように浮上している感覚は理屈で抑えるのではなく、体で受け止めるようにします。

不安感や怒り、悲しみ、焦燥感などもみな、今この瞬間にいて、深く呼吸をしながら身体でじ~っと受け止めていると、思考が走らなくなります。

そうしていると、過去の体験によって生じ、完了できなかった感情のエネルギーが完了するのと同時に、過去のストーリーも手放されて行きます。

その状態で改めて今この瞬間の出来事に向き合ってみると、覆いかぶせてみた過去のストーリーは消え、目の前のその出来事は過去の体験に「似た」出来事ではなく、唯一無二のオリジナルの出来事として認識されるでしょう。

このようにして過去の体験で生じた未完了の感情のエネルギーが解放されない限り、私たちは日常の似ても似つかない体験の中に、その体験を被せて見続けるのです。

そうすることで、私たちは自分の体験するものを、過去の体験と同じようなものに誘導してしまうことが多くあります。好ましいことなら大歓迎でしょうが、大抵はそうではなく、嫌な体験に引っ張って行ってしまうのです。

私自身にもこうした部分はあるので、今回は最近気づいたあるテーマについて掘り下げてみました。もうすぐレナード・ジェイコブソンの清里リトリートの申し込みが始まるので、レナードについての私自身の複雑なわだかまりに向き合ってみることにしたのです。

レナードは、他の人ではあまりトリガーされない、私の中に埋もれた感情のわだかまりをいちいちトリガ―してくれるので、とても尊敬してはいますが、なかなかに向き合うことのきつい存在なのです。

彼を前にして私の中で湧き上がってくるのは、「私が何を言っても、理解されないし拒絶されるだろう」という言いようのない悲しみ、そして見捨てられてしまったという途方に暮れる感じと、絶望感です。

この感覚は、母に対して一部持っているような気もしますが、どこか完全に一致しないものを感じています。

固く凍り付いている感覚の奥で、今生ではない人生のいくつかの場面が見えるので、多分過去世から引っ張ってきているものなのでしょう。

当時はあまりにも相手の態度がショックすぎて、何も言い返せなかったし頭が真っ白で、息さえできていませんでした。相手は私を一方的に決めつけ、断罪し、私に寄り添って話を聞こうとはしてくれませんでした。

その態度が、恐くてショックで混乱していて、自分に被せられた相手の決めつけたストーリーを打ち払うこともできず、ただ凍り付いて立ち尽くすのみでした。

そういえばこの感覚、ごく弱いものですが数年前に立ち寄ったあるお店での、店員さんとのやり取りの中で経験したものと同じだということに気づきました。この時はひどく腹を立てたのですが、言いたいことはたくさんあったのに、あまりのことに言葉になりませんでした。

私は、身体の中のその感覚をしっかり捉えて、命の呼吸を送りました。凍り付いた感覚が少しずつ弛んでいくにつれ、ビジョンの中の自分が何か言い返しているように変わりました。

しばらくワークして、改めてレナードに向き合ってみると、少し感じ方が変わっていました。まだ拒絶される感じは残っていますが、ちょっとだけ寄り添ってくれるような感じが増しています。

この調子で、リトリート本番までに少しはこの絶望感を癒しておきたいと思います。

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